『コブラ SPACE ADVENTURE』(1982)

お正月にCSで放映していたアニメ映画その一。ちなみに、その二はエスカフローネですが、これはまた後日に。

さて、今回のネタである『コブラ SPACE ADVENTURE』は、寺沢武一の代表作『コブラ』の劇場アニメ版です。旧TV版と比べるといまいち影の薄い劇場版ですが、実は旧TV版に先行して公開されています。わずか三ヶ月の先行ですけど。ちなみに、1982年には他にも、1000年女王、めぐりあい宇宙、イデオン、わが青春のアルカディアテクノポリス21C、ゴーショーグン、ゴッドマーズ等も公開されています。80年代のアニメ映画シーンってSF色が非常に強かったですよな。なお、今回の放映のおけるタイトルは「スペースアドベンチャーコブラ(劇場版)」でしたが、これはDVD化時に付けられたタイトルだそうです。


劇場版に登場する主なキャラクターは、コブラ、レディ、ジェーン、ドミニク、キャサリンクリスタルボーイ、サンドラとスノウゴリラの面々。要は、旧TV版の1クール目に登場する面々ですが、設定や脚本が原作及び旧TV版とは大幅に違っています。三姉妹はキャプテン・ネルソンの娘ではなくミロスという星の三人の女王候補であり、その継承者争いに海賊ギルドとクリスタルボーイが介入し、それにコブラが巻き込まれる、という筋立てです。また、サンドラとスノウゴリラは海賊ギルドのメンバーではなく、海賊ギルドと対立しているレジスタンスとなっています。旧TV版が細かい設定や演出面では原作との差違がいくつかあるものの基本骨子において原作通りなのに対し、劇場版はほぼ完全にオリジナルストーリーです。


また、ストーリーやキャラの立ち位置以外にも、旧TV版とは表現上の差違が多々見受けられます。とりわけ、気になるのは以下の諸点です。

  1. コブラ以下、キャラのキャスティングのほとんどが異なる。
  2. コブラの左腕に義手が無い
  3. タートル号のデザインが異なる
  4. サイコガンの影が薄い
  5. クリスタルボーイのデザインが大幅に異なる

1について、旧TV版と同じキャストはレディとサンドラだけです。藤田淑子さんは役柄が変わっています(劇場版ではキャサリン、旧TV版ではジェーン)。劇場版によくある、本職の声優をあまり使っていないパターンです。劇場版の方が先行していたことを考えると、劇場版が悪いのではなくむしろ旧TV版で改善されたと言うべきなのでしょうが、やっぱり、松崎しげるはないなと。旧TV版の野沢ボイスに慣れ親しんでいるからとか、そういう次元ではないです。演技力もさることながら、松崎コブラには不敵な雰囲気が決定的に欠けています。あれではコブラになりません。山田康雄ルパン三世栗田貫一ルパン三世と同じか、それ以上に落差が有り過ぎます。また、ドミニクとジェーン(特にドミニク)の二人は棒です。この当時、本職声優でない芸能人声優を起用した劇場アニメはたくさんありましたけど、劇場版コブラはその中でも駄目な部類に入ると言ってよいでしょう。

2について。原作・旧TV版ではコブラの左腕にはサイコガンが付いており、普段はその上に義手をかぶせています。そして、サイコガンを撃つ時には義手を外して右手に持つというのが定番のスタイルです。これに対し、劇場版では左腕がサイコガンに変化し、そのまま撃つという描写がなされています。でも、なんでそんな魔法みたいな変形をするん? ちょっと意味が解らないです。また、原作・旧TV版では左腕の義手は案外重要なアイテムだったりします。金属探知機やX線装置からサイコガンをシールドする役目を果たしたり、ロケットパンチのように撃ち出して攻撃に使ったりと、多彩な活躍を見せるのです。クリスタルボーイとの戦いで彼に決定打を与えたのも撃ち出した義手による一撃です。なので、義手の設定を無くすメリットが全く見あたりません。むしろ、サイコガンの無骨な魅力をスポイルしています。

3については褒めるべき点だと思います。メカの描き込みの細かさも手伝い格好良いです。旧TV版のタートル号の変形機構とか要らんしなw

4については私の主観によるものですが、劇場版のコブラはサイコガンの使用が非常に控えめです。もっと撃てよ!って言いたくなるくらいにサイコガンを撃ちません。ならば、ここ一番の使用に向けてのタメを作っているのか?と言えば、そうでもないんですよね。また、ドミニクが殺された後、その心労によってコブラは射撃練習にも精彩を欠きます。そんなようなメンタルに難のあるコブラの描写自体も感心出来ないわけですが(旧TV版のように怒りに燃えて心を奮い立たせる方がコブラらしいです。その上、前述のような松崎コブラの不敵さの欠如がコブラの情けなさを助長しています)、あまつさえ、「どうせサイコガンではクリスタルボーイには歯が立たない」などとうそぶくに至ってはもうちょっと勘弁して欲しいです。コブラのトレードマークであるサイコガンなのに、全編を通じてほとんど要らない子になっているのはどうですかね。

5について。これも大きな変更点。それも、改悪点だと思います。海賊ギルドの幹部であるクリスタルボーイは超合金の骨格に特殊偏光強化ガラス製ののっぺりとしたガワを纏い、右腕に三日月型の鉤爪(これも超合金製)を付けたサイボーグです。その特殊ガラスの体はあらゆる光学兵器を素通りさせます。そしてそれはサイコガンすら例外ではありません。およそ感情をうかがい知ることの出来ない無機質さとサイコガンすら通じない体を持った冷酷無比なガラス人形の絶大なインパクトから、原作序盤に登場して倒されそのままフェイドアウトする存在であるにも拘わらず、コブラ最大のライバルとして不動の人気を誇っています。また、旧TV版においては、口が動くことやセルアニメの質感の都合等から原作ほどの無機質感には欠けるものの、声優の小林清志の好演もあり、やはり人気を博しています。個人的にも、小林清志は『ルパン三世』の次元大介よりも、クリスタルボーイの方がはまり役だと思っているほどです。
 これに対し、劇場版では上背が伸びてコブラよりもはるかに大柄になるとともに、体の造形が露骨に筋肉質になりました。また、トレードマークの鉤爪も無くなり、代わりに、自分の体からあばら骨を引っこ抜いてそれを超合金の刃として振るうという戦闘スタイルになりました。その上、これが決定的な違いですが、はっきりと表情がつけられるようになったのです。具体的に言うと、口唇が厚ぼったくて肉感的になりました。そして、その口を歪めて、あるいは大口を開けて高笑いするようになったのです。さらに、原作ではただのガラス玉であった目も、光の明滅によって感情を表すようになりました(これは旧TV版も同様なのですが、劇場版の方がよりはっきりとそれが出ています)。これらの結果、クリスタルボーイの無機質さ故の不気味さと凄みがスポイルされ、ただ単に強いだけのサイボーグになってしまっています。ちなみに、コブラクリスタルボーイを倒した武器も、このクリスタルボーイ自身のあばら骨。これを一応はサイコガンを射出装置として撃ち込んで倒しているのですが、やっぱり最後までサイコガンがほとんど関係無ぇ。

有り体に言って、タートル号のデザイン以外は全て低評価です。旧TV版が原作準拠で本当によかったと思います。


さて、ここまでは表現上の相違点について上げてきましたが、脚本そのものも決して褒められません。

「愛」がキーワードになっているようですけど、死んだジェーンのコブラへの愛を妹のドミニクが受け取ったから彼女もコブラを愛する、っていうのは、三姉妹が女王の器を三等分された存在であることを考慮したとしてもやはり不自然です。劇中でコブラ自身が言っているように、ちょっとおかしいです。

また、キャサリンクリスタルボーイに心を操られていたという設定ならば、彼女がシドの刑務所に収監されていた理由がありません。

さらに、クリスタルボーイを倒した後、海賊ギルドの戦闘部隊が目の前のコブラを完全スルーして帰ってしまったのも謎です。コブラって海賊ギルドから銀河随一の懸賞金を掛けられているのでしょう? 直属の司令官が倒れたからと言って、その下手人たる賞金首をガン無視するとか有り得ないですよ。総じて、不自然な演出がやけに多いのです。


結論として、この映画は「不死身の男」コブラの無敵さも不敵さも表現出来ていません。また、自由闊達に生きるためには銀河パトロールも海賊ギルドとも刃を交えることを辞さないコブラの主体性も薄く、散々に巻き込まれ、振り回される印象ばかりが強いものになっています。およそ「背中で語るオトコ」っていうイメージではないですね。キャストの件を抜きにしてもやっぱり黒歴史だと思うなあ、これ。



余談ですが、『コブラ』って、
 原作>コブラ
 劇場版>コブラ SPACE ADVENTURE
 旧TV版>スペースコブラ
 OVA版、新TV版>COBRA THE ANIMATION
というタイトルの付け方になっています。QMAの順当てか線結びで出したら面白いかもねw