『Quartett!』(Littlewitch/2004)

本作はLittlewitchの第2作目です。処女作『白詰草話』に引き続いて本作でも使用されたフローティング・フレーム・ディレクター・システム(コマ絵によってデジタル漫画のような演出を行う方式。以下、「FFDシステム」という)はLittlewitchというブランドの演出技術に類い希なる個性を与え、それによって同ブランドは高い評価を受けました。その反面、このシステムは同ブランドにとって相当な負担となっていたようです。『白詰草話』と『Quartett!』の欠点として挙げられる「ボリュームの無さ」はFFDシステムの弊害であると言われ、事実、3作目以降では同システムはほとんど使われていません。また、メガストア誌上での大槍氏のインタビューにおいても、

  • 「4〜5万(本)は売れないと商売として成立しない」
  • 「最初にFFDやってなければいろいろと違ってたかもしれない」
  • 「3万(円)で売りますか?(笑)」
  • 「たとえば12800円とか、そういうレベルで解決できる話じゃないんですよね」

と、FFDシステムの作業量的・資金的負担の大きさについて吐露されています。最大の武器であったはずのFFDシステムがいつの間にやら軛になってしまったというのは皮肉なことです。日本海軍の真珠湾作戦と大艦巨砲主義みたいですね。とは言え、FFDシステムの魅力自体は絶対的なもので、これを全面的に否定することはないと思うのです。



本当は、コラムとしては動画を貼ったら負けな気もするんですけど、こればっかりは貼らざるを得ません。百聞は一見にしかず。


さて、物語はクリスマスイブのミサから始まります。幼少時に父から受けた手ほどきを元に独学でヴァイオリンの演奏を学んできた主人公のフィル・ユンハースは、クリスマスのミサで行った演奏が音楽の名門・マグノリア音楽院の教師であるクラリサの目に留まったことがきっかけで、学院への編入を促されます。編入したフィルは、第二ヴァイオリンの少女が退学したためにメンバーを欠いたカルテットへと加入し、3月に開催されるコンクールを目指して練習に励むことになります。メンバーの少女たちと親交を深めながらコンクールに取り組むというのが本作の大筋です。

タイトルである「カルテット」のメンバーは、主人公のフィル(第二ヴァイオリン)と、シャルロット・フランシア(第一ヴァイオリン)、ユニ・アルジャーノヴィオラ)、李淑花 −リ・スウファ−(チェロ)の三人のヒロインたち。各ヒロインを一言で描写すると、シャルロットはロリ担当(年齢的には最上級生)のツンデレ、ユニはスレンダーで悪戯好きなラテン系、スウファは少し陰のある黒髪眼鏡の巨乳少女です。三人のうち二人がツルペタというのは一見すると敷居が高いのですが、実はLittlewitch的にはマシな方です。いや、だから人を選ぶんだろうな、このブランドは。

このうち、メインヒロインはシャルロットです。かつては学院きっての才能と言われながら伸び悩んだままでいる彼女の葛藤が、中盤までのストーリーの主軸となります。ちなみに、シャルロットはLittlewitch作品の登場人物の中でおそらく最も人気のあるキャラです。
かたやスウファは、寡黙でおとなしそうに見えて実はボケとツッコミを巧みにこなします。本作では漫画的なギャグ描写も非常に多いのですが、本編冒頭でクラリサ先生にチェロケースをぶつけて血塗れにした(本来のターゲットはフィル)のはスウファの仕業です。なお、煽ったのはユニで、責任を取らされて(゚Д゚)ゴルァ!されたのはシャルロットです。
ユニは私の一番のお気に入りです。基本的に明るいキャラであるものの、自分の才能の限界に対する諦めをコンプレックスとして持っていて、それが笑顔の裏に翳りを落としています。ユニ絡みのイベントとして、彼女が風邪を引いて寝込んでいるところにお見舞いに行き、その際に背中を拭いてあげるというシーンが序盤にあるのですが、私などはこのシーンだけでご飯が食べられます。ユニのバックシャンぶりにはもうめろめろですがな。乳なんかただの飾りです。エロい人にはそれがわからんのですよ。

この他にも、ライバルカルテットのメンバーとして、ユニの双子の妹でツンデレの才媛のメイ(第一ヴァイオリン)、苦学生のハンス(第二ヴァイオリン)、姐御肌のシニーナ(ヴィオラ)、世間知らずのお嬢様なジゼル(チェロ)などが登場して、フィルの周りを彩ります。


さて、本作には明確な長所と短所があると考えます。長所はCGと雰囲気と前半のシナリオと音楽、短所は後半のシナリオと濡れ場です。

CGについては絵師によるところが大きいので今さら何も言うことはありませんが、雰囲気については一言だけ。Littlewitchのゲームはとにかく雰囲気が佳いのです。ではその雰囲気とはなにかというと、おそらくはゴージャス感なのではないかと。それも、「後からお金をかけました」という類のものではなく、「生まれ持っての貴族的な雰囲気」といったような豪華さがあるのですね。だからこそ、音楽学院とか、執事とメイドとか、そういったテーマがよく似合うのでしょう。

シナリオは、前半が各ヒロインの共通ルートになっています。伸び悩むシャルロットの心の葛藤と、それを解きほぐしていくフィルとの触れ合い、そして、自カルテット&ライバルカルテットの面々との切磋琢磨がメインテーマとなっています。ユニやスウファについては、内心や家庭環境が垣間見られるシーンはあるものの、シャルロットに比べればおまけに近いものがあります。そして、このことは後半パートでマイナスに働きます。とは言え、合宿におけるダブル・カルテットの演奏を山場とする前半シナリオの盛り上がりには、全体としては素晴らしいものがあります。

その音楽は、音楽学院が舞台ということで、非常にクオリティの高いクラシック系の曲を揃えています。さらに、ストーリーが進むにつれてだんだん上手くなる(音が合ってくる)という演出がされているのにも脱帽です。また、本作にはキャラクターボイスが付いていませんが、そのことがかえって音楽の良さを引き立たせています。本作に関しては、ボイスは無いのが正解ではないかとさえ感じられるのです。ちなみに、PS2移植版はフルボイスのようですが、キャスティングが私のイメージと違いすぎていて、聞くのがちょっと怖いですw

他方、シナリオ後半では、前半で選んだ各ヒロインのルートへと分岐します。シャルロットはかつての師と、ユニは自分の心の弱さと、スウファは複雑な家庭環境と、それぞれ対峙することになります。しかしながら、ここからの展開が、正直言ってどれも芳しくない。

ますシャルロットですが、シナリオ前半の流れを受けているため、ヒロインとしての立ち位置は理解できます。しかしながら、対峙すべきかつての師マリウス・ロッシがネガティブな要素しか感じられないキャラクターのため、ものすごく気持ちの悪い感触があるのです。また、ロッシの弟子兼恋人として登場するソフィ(ちなみに、前述した、退学して「カルテット」を抜けた少女とは彼女のことです)にしても、プロローグから伏線が張られている割には微妙な役回りで脱力感があります。
ユニのルートは展開があまりに不自然です。双子の妹であるメイの役回りについて、「なんでお前らそれで納得してるんだよ!?」と言いたくなります。
スウファに関しては、他の二人とかなり毛色が違っています。音楽の話から大きく離れて、いささかダークなご家庭の事情へと突入するのですが、実はこのシナリオではフィルはほとんど何の役にも立っていません。にも拘わらず、一人奮闘した彼女の兄をスウファがあっさりと切り捨ててしまうところにはちょっと納得のいかないものがあります。
加えて、ユニとスウファの場合には、前述のようにシナリオ前半での役回りが小さいため、個別ルートで恋愛関係へと向かうのがかなり唐突な感があります。これらの結果として、共通ルートの展開が非常に素晴らしいのにも拘わらず、個別ルートはいずれも「拙速」と言わざるを得ません。

また、濡れ場の方が、なんと言いますか……。まず、前述のように個別ルートの展開自体に唐突な感があるため、それに伴い、Hシーンもなにやら唐突で、いかにもエロゲ的なご都合主義感が漂います。また、その内容がやけに濃いのです。「さっきまで爽やかな青春模様だったのになんでエロシーンだけこんなにくどいの!?」と思わず叫びたくなります。そして、それに拍車をかけているのが濡れ場の描写の手法です。本作のシステム上の売りがFFDシステムであることは既に述べました。しかしながら、HシーンにはFFDは使われていません。代わりに普通のエロゲのような状況説明文によって描写されているのですが、この文章がやたらと官能調。喩えるならば「少女漫画を読んでいたら、ラブシーンのところからいきなりフランス書院の小説が始まったでござる」とでもいうような状態でして、その違和感が半端ではありません。正直申しまして、エロシーンは不要でしたよ、このゲーム。コンシューマ版のエロゲみたいに暗転して朝チュンの方が良かったとしか思えません。エロシーンは不要(あってもなくてもいい)なのではなく、省くべきだった(存在するために評価を下げる原因となった)というのが私の感想です。もっとも、絵的には悪くありませんでしたけれど。


それでは、ここまで文句を付けた挙げ句に「このゲームは面白いのか?」と問われれば、面白いんですね。100点が付くようなゲームでは到底あり得ないものの、75点80点は付けてもいいでしょう。まあ、優等生ですね。今現在は廉価版(『Quartett! Standard Edition』)が発売されていますので、むしろ相当にお得な感があります。私個人としては『白詰草話』の方が好きなんですけど、『Quartett!』の方が癖はないでしょう。いずれにせよ、この、Littlewitch初期の作品というのは是非ともお勧めしたいですし、また、このような個性的な作品を生み出したブランドが活動休止になってしまうというのは本当に残念でなりません。諸行無常


Quartett! スタンダードエディション

Quartett! スタンダードエディション