『戦国魔神ゴーショーグン』(1981)

歌っていたらなんとなく書きたくなったので。


以前、『GOD BLESS DANCOUGA』のエントリで、ロボットアニメ『超獣機神ダンクーガ』について、「少年向けロボットアニメであるにも拘わらず、ヴィブラートの掛かった野太いシャウトやド派手な必殺技ではなく、ハードな戦争劇や愛憎ドラマを見せることに腐心した作品」と書きました。そして、そのために高年齢層にはキャラクター人気が出たものの、メインターゲットの子供たちには受け入れられずに、結果として打ち切り路線を歩んだのが、ダンクーガという作品です。

ところで、このダンクーガの制作元である葦プロダクション(現:プロダクションリード)は他にも数多くのロボットアニメを制作しており(もちろん、ロボットアニメだけではありません。例えば、「ミンキーモモ」なんかも同社の制作だったりします)、中でも国際映画社と共同制作した『宇宙戦士バルディオス』などは打ち切りアニメ史上に名高い作品なのですが、このバルディオスの後に作られたロボットアニメこそが、『戦国魔神ゴーショーグン』です。

ゴーショーグンはダンクーガと同様に、ロボットアクションよりもキャラクター描写に力の入った作品でした(というよりも、ダンクーガで懲りずに同じことをやったというべきですが)。ネットで「ゴーショーグン 魅力」などと検索すれば、それがキャラクターにあるという内容のテキストがいくらでも引っかかります。いや、ゴーショーグンというメカ自体も格好良いとは思うんですよ。すごくバトルフィーバーロボっぽいけどw なお、スパロボでは、ゴーショーグンは「劣化ダンクーガ」なユニット性能であることが多く(メカの方向性が同じなのに、パイロット人数が少ない分だけ精神コマンドが使いづらく、攻撃力はほとんど変わらないのに武器のエネルギー消費は大きく、改造費が高い等々)、スパロボファンからもそっぽを向かれることが多いユニットだったりします。

それでは、キャラの魅力が何処にあるのか。一言で言うと「洒脱さ」です。もう少し細かく見ましょう。なお、劇中の登場人物としては、以下のキャラクターを念頭に置いて下さい。
主人公側「グッドサンダー」>サバラス(司令官)、ケン太、真吾、レミー、キリー(真吾、レミー、キリーをゴーショーグン・チームと呼ぶ)
敵側「ドクーガ」>ネオネロス皇帝、ブンドル、カットナル、ケルナグール(ブンドル、カットナル、ケルナグールをドクーガ三幹部と呼ぶ)


1.基本的にみんな大人

読んで字の如くです。ゴーショーグン・チームの3人は、真吾が21歳、レミーとキリーは年齢不詳ですが同じくらい。サバラスとドクーガの面々はいいおっさん(ブンドルに関しては近藤正臣ばりの年齢不詳っぷりですが)。つまるところ、お子様キャラはケン太だけなのです。かつてのロボットアニメの主人公は、視聴者の子供目線を投影するために同じく子供であることが多く、本作もそのパターンではあるのですが、肝心のロボットのパイロットというわけではありません。一応はストーリーの牽引役を任されてはいるものの、半ばとってつけたような感じで、はっきり言って要らない子です。そのため、周りの大人たちが子守の脇役ではなく、明確に主役となっているわけです。

しかも、単に年齢が高いというだけではなく、精神的に落ち着いています。基本的に、熱病的な情熱や野心に突き動かされてはいないのですよ。ゴーショーグン・チームにしても、「大変だけど、やらなきゃいけないならばまあ仕方がないよね」みたいな、良くいえば達観した、悪くいえばスレたところがあって、雰囲気が微妙にシニカルなのです。


2.敵側の方が実は人生勝ち組

ゴーショーグン・チームの真吾、レミー、キリーの3人と、ドクーガの三幹部であるブンドル、カットナル、ケルナグールを比べた場合に、ある明確な違いがあります。一言で言うと、ドクーガ三幹部の方が人生勝ち組です。

真吾は元・国連所属の破壊工作員です。レミーはパリの娼婦が馴染みの日本人客との間に作った私生児で(客の姓が島田で、その男がレミーマルタンが好きだったためにレミーと名付けられました)、産業スパイとしての任務に失敗して自殺を図ったところをグッドサンダーにスカウトされました。キリーはアメリカの小さなストリートギャングのボスで、手下の罪を代わりにかぶって懲役200年で収監されていたところを助けられてグッドサンダーに入りました。揃いも揃って、子供には理解できないレベルのやさぐれた経歴ですよ。だいたい、暇な時間に三人打ち麻雀とかやってますからね。「平和のために悪を撃つ、ピンフキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」なんていうヒロインが何処の世界にいますかw

これに対しドクーガの方はブルジョワ揃いです。ブンドルはイタリアの名門貴族の出であり、生来の大金持ちです。カットナルは製薬会社の社長で、大統領だった父がテロで殺された(この時、自身も片目を失いました)ことから、自分も大統領になるという願望を強く持っています。ケルナグールは元はボクシングのヘビー級世界チャンピオンでしたが、パンチドランカーになって引退、引退後は美人の妻とともにフライドチキン会社を立ち上げ、それを世界的フランチャイズにまで成長させました(要はケ○タッキーの社長のようなものです)。いずれも表社会で地位も名誉も富もある人間ばかりです。

それでは、何故そんなブルジョワな連中が悪いことをしているかというと、暇だからです。というよりも、本人たちは別に悪いことをしているというつもりはありません。確かに、ネオネロス皇帝は未知のエネルギー「ビムラー」の入手を狙い、そのために「世界征服」という表向きの目標を掲げています。しかしながら、三幹部にとっては実はそんなことはどうでもいいのです。彼らは暇つぶしにそれにつきあっているだけです。要するに、「世界征服サークル会員募集中」という張り紙を見て、気まぐれにそれに参加しているだけなのです。また、ネオネロス皇帝の方もそれをわかっていて、その上で三幹部の地位や富を利用しているに過ぎません。「無論、キャッシュで一括払いだ!」というブンドル局長の有名な台詞があるのですが、これがどのような場面で使われたかというと、ブンドルが担当した作戦が失敗した後の場面でです(なお、一括払いの理由は金利をけちっているからではなく、分割払いが彼の美学に反するからです。そのために、彼は手持ちの城を売り払ってまで一括払いにしたりするのです)。一応は皇帝と臣下という形にはなっているものの、要は社交サロンですので、上命下服の封建関係にあるわけではありません。そのため、作戦失敗の責任は、組織への損失補填という形で取ればOKです。お金を払えばそれで済み、罰せられたり処刑されたりなんてことはありません。こんな敵組織も他に類を見ないでしょう。


3.実はみんな良い人

上記のように、実戦部隊であるゴーショーグン・チームの3人とドクーガ三幹部は、世界平和とか世界征服とかをそれほど真剣に考えているわけではありません。ゴーショーグン・チームは成り行きで参戦することになっただけですし、ドクーガ三幹部に至っては単なるお遊びです。そのため、両者の間には明確な敵意やわだかまりはありません。ある意味、プロレスみたいなものです。ベビーフェイスとヒールだって、プライベートでまで仲が悪いわけではないでしょう?(もちろん、そういう場合もあるとは思いますけど) そのため、戦いが終わればノーサイドです。

実は、ゴーショーグンには8冊もの小説が出ています。1巻がTVと同じ内容で、2巻以降はその後日譚となっているのですが、後日譚ではゴーショーグンチームとドクーガ三幹部の6人が1チームとなって行動することになるのです。小説版の入手は現在は難しい(古本狙い)ですけど、小説のうちの1冊である「時の異邦人」は映画にもなっていまして、こちらはレンタルDVDで容易に見ることが可能かと思います。実はニコnゲフンゲフン 要は過去の業務上の敵対関係をプライベートにまで持ち込んだりはしなかったわけでして、なんとも大人と言うかドライと言うか。いずれにせよ、ネオネロス皇帝以外には、「敵役」はいても「悪役」はいなかったんですよ。


つまるところ、個々のキャラの魅力もさることながら、ベースにこのようなゆるゆるとした人間関係があったからこそ、キャラの魅力が活きてきたのでしょう。もしもガチンコで戦っていたとしたら、これほど面白い作品にはならなかったと思いますな。……と言っても、放映時間が変わりまくるわ挙げ句に打ち切られるわで、当たった作品とは到底言いかねますけどw